real feel
まあ言うわけないけど。
私だって主任のこと分かってるんだから。
でも喜んでくれたようだから、良かっ……。

「ギャフン」

……え、いま『ギャフン』って?

「なんだよ、言わせたかったんだろ。ただしこんなこと言うのはまひろにだけだから、他言無用で。俺のキャラが壊れるからな」

『まひろにだけ』だって。
私が望んだから言ってくれたって事だよね。
嬉しい……嬉しいんだけど、ちょっとだけ引っかかる事がある。

これから主任のお母さんに会うんだよね。
もう私の家族や親戚には公認だし、主任自身も『婚約者』って言ってくれている。
だけどまだ、私は主任から一番言って欲しい言葉を貰っていない。
主任だってきっと分かってくれているはずだけど、言ってくれないのはなぜ?
気にしないようにしていても、時々そのことが頭を掠めてしまう。
このままで本当にいいのかな……。

「大丈夫ですよ主任。私だけが知っている主任の素顔なんですから、勿体なくて誰にも言えません。そうやってありのままの主任を私に見せてくれることが嬉しいんです、私」

だけど今は……。
私の考えてる事を見透かされないように、にっこり笑った。
不安を感じる必要なんてない。
主任がこうして私と一緒にいてくれることが私を安心させてくれるんだから。

主任はそんな私を見て何か言いたげだったけど、私と同じようににっこり笑ってくれた。

「美味いなコレ。またまひろの"初めて"を貰ったんだから特別美味く感じる。また作ってくれよ」

「はい、喜んで」

2人の時間は穏やかで、これから始まる会合のことを忘れてしまいそうになる。
それでも時間は等しく過ぎていくもの。
もうそろそろ、いらっしゃる頃かな?
約束の時間が刻一刻と近づくと共に、緊張が高まっていく。
吉田先生まだお戻りにならないけど、いいのかな。

< 148 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop