real feel
………そろそろ頃合いか。

先輩からの情報によると、今頃小久保はラーセクの機密情報を操作しようと試みているはずだ。
機密情報にアクセスできるのは、役員フロアのPCだけ。
一般社員のPCからは情報を閲覧することもできないシステムになっている。
だから今、翔に極秘任務として部長の部屋でデータのチェックを任せているのだ。

小久保は今頃、データへのアクセスを成功させるべく必死になっているだろうと思われる。
そこへ満を持して乗り込もうという訳だ。

今、手にしているIDカードをもう一度確認して、役員フロアの絨毯が敷かれている廊下を踏みしめるようにしながら進む。
歩みを止めて目の前にある"常務室"と書かれた扉を睨みつけ、深呼吸してから力強くノックした。

「常務!いらっしゃいますか?教事1課の宮本です」

シーンと静まり返ったままの部屋。
想定内ではあるが、やはり返答はない。
常務はいま社内にはいないのだから、返事が返ってくるわけないのだ。

シーンとしたままの部屋の前で中の様子を窺う。
もう俺が諦めて去って行ったと思っているか、それとも暫くは警戒しているか。
まさかいつまでもこうしてドアの前で張り付いているとは思うまい。

このフロアはシーンと静まり返っているし、ちょっとした物音でも響いてしまうから慎重に耳を澄ませる。
部屋の奥からの微かな物音を俺は聞き逃さなかった。

やはりアイツは、小久保はこの部屋の中にいる。

もう何も迷うことはない。
手にしているIDカードをドアについているカードリーダーに差し込んだ。

ガチャ。

なんの躊躇いもなくドアが開く。
部屋の主は不在だが、奥に潜んでいるであろう男の元に急いだ。

「……宮本。どうしてここに?」

俺のことを『場違いだ』と言わんばかりの軽蔑の目で睨みつける小久保。

「それはこっちの台詞だ。常務はいないらしいけど、どうしてアンタがこの部屋にいる。役員フロアでしかできない仕事か?」

PCは画面を閉じてはいるが、まだ起動中だろう。
あの僅かな時間では電源を落とす事も出来なかったはずだ。

< 174 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop