real feel
やっぱりか……。

「蘭さんのこととか聞かれませんでしたか?」

『ああ、聞かれたよ。広報に異動になったことを教えてやったけど。ちょっと話したいからって広報に顔出してみるってさ。可愛がってた部下のことを気にするなんて案外あいつも面倒見がいいんだな』

そうか、広報に。
それじゃ上村女史に聞くのが早いか?

「ありがとうございました。じゃ急ぎますので」

『あ、そう言えば』

「え、まだ何か!?」

『いや、大したことじゃないだろうけど。木原が資料を探したいって言うから、蘭さんに手伝ってもらったらどうかって言ったよ。木原の下で頑張ってた蘭さんだから、役に立つだろう?5年も上司と部下の関係だったんだ。気心も知れてるだろうし』

な、なんだって!?
選りにも選ってあの因縁の資料室か!
"密会スポット"と悪名高いあの、資料室……。

「先輩早く常務室に!小久保はもう観念したらしいですから、手間はかからないはずです。とっとと仕事してくださいよ。ではまた!」

資料室か。
急いだ方が良さそうだな。

…………って。
まひろのピンチに駆けつけるのは俺の仕事じゃないだろ。

翔のヤツ、まだ知らないんだよな。
本部長室でミッション中であろう翔の携帯を呼び出そうとしたけど、電源が入っていない。

くそっ!!
とりあえず本部長室へ向かう。

鍵がかかっているため、逸る気持ちを抑えつつノックを繰り返す。

「俺だ、翔。開けてくれ早く!」

「もう片付いたんですか。意外と早かっ……」

「おい、お前こんなときに何やってんだ!携帯も切ったままで」

苛立ちが募り一気に捲し立てるが、何も事情を知らない翔はやけに落ち着き払っている。

「課長が切れと言ったんじゃないですか。まだチェック終わってませんよ。あと5分あれば終わりますが」

「そんなことはどうでもいい!それより、まひろが大変だ」

「まひろが?アイツなら今日はノーザン申請してるし、もう退社してるはず。あ、そういえば連絡する暇がなかった」

「まひろは多分まだ社内にいる。こんなところでのんびりしてる場合じゃないぞ、翔。俺の勘が間違ってないのなら、まひろは今頃ピンチなはずだ。早く行ってやれよ。アイツを助けてやれるのは、お前しかいないだろ」

そうだ、もう俺はまひろを助けてやることはできない。
その役目は翔に任せたんだからな。

「ピンチって……。まひろは何処にいるんだ?」

「……資料室だ。いわゆる"密会スポット"として知られているあの"資料室"にいるかもしれない。急いだ方がいいんじゃないか?因みに……あっおい!」

一緒にいるのは木原だと告げようとしたのに、それを聞こうともせずに部屋を飛び出して行った翔。

資料室でまひろと木原がどうしているのか知らないが、翔のヤツはどのように対処するつもりなんだろうな。
気になるからあとで様子を窺いに行ってみるか。

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