real feel
「上村課長から許可をもらってきたよ。じゃ行こうか」

さっき『ちょっと付き合って』って言われたんだっけ。
どこに行くつもりなんだろう。
すぐに済む用事だよね。
そうでないと困るんだけどな……。

「あ、木原課長!蘭さんは今日"ノーザン"ですから!定時で退社しないといけませんので。そこのところ宜しくお願いしますね。それから、私はこれからちょっと用事で出ますので、ここで失礼します」

「上村課長も相変わらずお忙しそうで。どうもありがとうございました」

上村課長、本当に忙しそう。
女性であんなにバリバリ仕事できるのって、憧れるよね。

「"ノーザン"なら早くしないとね。じゃ早速……」

そういって部屋を出る木原課長の後をついていく。
頼みごとがなんなのかよく分らないけど、はやく済めばいいな。

「教事1課の頃、俺が担当していた取引先についてのデータを見たいんだ。蘭さんに手伝ってもらってた案件だから、きっと憶えているだろうと思ってね。探すの手伝って欲しいんだ」

「分かりました。そういうことでしたらお役に立てるかもしれません。探すのお手伝いします」

ということは、あの"資料室"に今から行くって事だよね。
木原課長と2人きりでっていうのが引っ掛かるけど……。

どうしようあとで翔真に知られたら、怒られるかもしれないな。
別に木原課長のことなんてなんとも思っていないし、やましい事もないんだけど。
私も関わった案件のデータを探したいっていうのに手伝わないのも変な話でしょ?
だから、この場合は行っても問題ない……よね。

ただ、黙っているのも気が引けるし。
そう思った私は、木原課長に見られないように携帯を操作して翔真にメールを送った。

『資料室に行って来ます』

短い時間ではこの文章だけで精一杯だった。
木原課長と一緒だって事を伝えたかったけど、仕方ない。
資料室に入ってから、木原課長からメモを手渡された。

「そこに書いてあるデータを探したいんだけど、どの辺に有りそうなのか見当もつかなくてね。蘭さんだったら分かるんじゃないかと思ったんだけど」

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