real feel
「宮本さんも"課長"だね。課長フェチって本当?でも宮本さんは奥さんと上手くいってるらしいし、別れる気はないんじゃないかな、望みは薄いんじゃないかって思うよ。それに比べて俺は今別居状態だし、いつ別れてもおかしくない。蘭さんの気持ち次第では、これから俺と未来を共に歩むことだって出来るんじゃないかって思うんだよ。ねぇ、そうだろ?蘭さん」

「待って!!私が好きなのは、宮本課長ではありません!!」

得意げにペラペラと喋り続けていた木原課長が、私の言葉を聞いてやっと黙った。
凍りついたように『信じられない』とでも言いたげな表情で私を真っ直ぐに見ている。

「それに、私ちょっとガッカリしてしまいました。木原課長はもっと美里先輩を大事にしてくれていると思っていましたから。2人の間に何があったのかは分かりませんけど、そんなに簡単に『いつ別れてもおかしくない』なんて言わないで欲しかったです。課長の美里先輩への気持ちってそんな簡単なものだったんですか?」

未来を共に?冗談じゃない!
共に歩んでいくのは、あなたじゃない。

「"簡単なもの"……?そうかな、そうだったのかな。俺も分からなくなってきたんだよ……」

弱々しく吐き捨てるように呟いた木原課長。
遠くを見つめるようなその表情は、疲れが滲み出ていた。
突然の一時帰国なんて、決していいイメージではない。
仕事でも何かしら行き詰まっているのかもしれない。
それに加えて、美里先輩とも別居中だって……。

「課長は美里先輩と別れるようなことになってもいいんですか!?本当は傍にいて欲しいんじゃないですか?」

だって、カモフラージュしてまで大事に守ってきたんでしょ?
私や周りの人たちを勘違いさせるような素振りで。
2人が幸せでいてくれるのなら、私は哀れなピエロにされたことだって許せる。
だってあの日は失恋もしたけど、それだけじゃなかった。
失恋の直後に新しい恋のきっかけがやって来たんだから。

ま、それは今だからそう思える出来事なんだけど。
私の大事なファーストキスの思い出だって、かなり苦いものではあったけど。

< 189 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop