real feel
「……まひろ!大丈夫か?さっきの叫び声は」

「だっ大丈夫。何でもないの」

本当はさっきまでの出来事を洗いざらい話してしまいたかった。
だけど奥にはまだ木原課長がいるし、入口の方からも野次馬らしき人たちの声が聞こえるし、壊れたドアの向こうからこちらを覗きこんでいる人たちの顔も見えている。

こんなたくさんの社員が注目している場所では言えな……。

………えっ?

「そうか、それならいい。なにかされてたんじゃないかって心配した」

私は、翔真に強く抱き締められていた。
さっきとは全然違う、安心感に包まれて泣きそうになる。
私のこと心配して駆けつけてくれたんだね。
私を包み込んでくれている力強い腕が、微かに震えているような気がした。

ここが会社の資料室だってことも忘れて、私も翔真の背中にそっと腕をまわした。
だけど野次馬たちのどよめきが波のように押し寄せてきて我に返り恥ずかしくなった。

翔真もゆっくりと私を拘束していた腕をほどき、視線を私の後方に投げかけた。

「……貴方でしたか、木原課長」

口調は穏やかだけど、地を這うような低い声。
怒りを必死に抑え込んでいるのがひしひしと伝わってくる。

木原課長は右足を軽く引きずりながら、こちらに近付いてきた。

「佐伯主任……。ドアが壊れているようだけど。物騒なことするもんだね顔に似合わず。何かあったのか?」

課長を捕らえていた眼光を更に鋭くさせ、ツカツカと課長に近付いていく翔真。
シャツの胸元をグイッと掴み、堂々と言い放った。

「元上司だからって、セクハラしていいと思ってるのか?金輪際まひろに……俺の女に手を出すんじゃねーよ!!」

…………ちょ、ちょっと翔真!?

課長の胸元から手を離し、代わりに私の手を掴んだ翔真。

「帰ろう、まひろ」

ガヤガヤと騒いでいる野次馬を掻き分けるようにズンズンと進んでいく。
人だかりから少し離れた場所で私たちを待ち構えていたのは、宮本課長。

「よう、お疲れ!ご両人」


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