real feel
そ、その通りだわ。
あの場の僅かな情報だけでそこまで分かってしまうなんて。
やっぱりエスパー……。

「ちゃんと私の口から言わなきゃって思ったけど。どうしても、その、言いたくなくて……」

ごめんなさい。
嘘を吐きたくはなかったんだけど。

「分かってるから、もう何も言わなくていい。『腕を掴まれて』っていうのは本当なんだろう?それで引き留められてってことか。もう二度とまひろに触れさせない。俺以外の他の男に、触れさせてたまるかよ。まひろは俺の女、なんだからな」

「う、うん……。ありがとう翔真」

もの凄く嬉しい。
嬉しいんだけど、ここは教事1課のミーティングルーム。
他の社員はもう既に退社したらしいけど。
もしも誰かが戻ってきたりしたら……。
いや、そうなったとしてもさすがにミーティングルームにまでは入ってこないだろうけど。

「あ、あの、翔真。ここって……」

「分かってる。だけどもう少しだけ」

木原課長との資料室でのことは嫌だったけど、もしかしたら私以上に翔真は心を痛めてくれていたのかも……。

どういう風に知ったんだろうか?
資料室に私がいるって知って"密会"なんて嫌な予感が過ったのかも。
だけど木原課長が一緒だったって事を翔真は知らなかったんでしょ。

『貴方でしたか、木原課長』って言ってたのを思い出す。

誰と一緒なのかも分からず、ただ私を助けることだけに必死になってくれたんだ。
どういう状況なのか分からないで、不安を抱えてたんだよね。
だからこうやって抱き締めてくれる事で、翔真も安心できているのかも。
だったら思う存分、抱き締められていよう。

「ねぇ翔真。このミーティングルームで打ち合わせしたよね。よく叱られたりもしたっけ」

翔真とコンビを組むことになって、仕事でもほとんど一緒だったあの頃が懐かしく感じてしまう。
初めてこの部屋で話したのは、RYUZAKI工房についての報告だった。
それから資料作成の指示を受けたりもしたんだよね。


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