real feel
いつもだったら待ちきれないとでもいうように、直ぐに奪われるのに。
私の唇は寂しいまま放置されていた。

その代わりに、私の左手が取られて。
薬指にひんやりとした感触と、スルスルっと何かが滑るような感じ。

「あ、あの……。翔真?」

私ったら勘違いしちゃったのかしら。
ねえ、翔真……。


「まひろ」

名前を呼ばれて、目を開ける。

私を見つめる翔真と目が合ったけど、すぐに逸らされてしまった。
その視線を追ってみると、私の左手の薬指に光っているものが……。

「えっ!?こっこっ、これは?」

…………指輪。
もしかしてだけど、婚約指輪!?

「えっえっでも!ど、どうしてこの指輪を?」

あれは菜津美とイチにぃが結婚する前。
イチにぃが忙しいからって、指輪を買いに行く菜津美に付き合わされたことがあった。

あの時、やたら菜津美が私にもどの指輪がいいか聞いてきたり、試着させてサイズを確かめたりしてたことを思い出した。

その時に私がすごく気に入った指輪があったのだ。
一目惚れと言っても過言ではなく、その指輪を見つけてからは他の指輪が目に入らないほどだった。

あの時やたら菜津美が熱心にその指輪のことを店員さんに質問していたから、菜津美も気に入ったのかと思ったけど。

『私のは一弥さんと2人で決めてるから』なんてケロッとしてたのを不思議に思ったっけ。

「どうだ?気に入ったか、まひろ」

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