real feel
「一週間でお払い箱にされそうだったの、私」

「あんな厚化粧で無愛想なのに、要領は良いしスピードも申し分ない。新しい発想や提案も魅力だった。誰かとコンビを組んで俺の仕事がやり易くなるなんて初めての経験だった」

その割には意見がぶつかったり、私の勘違いでこてんぱんに叱られたりもしたけどね。

「あとは……」

「え、まだあるの!?」

もうこれ以上は……。
羞恥プレイに耐えられなくなりそう。

「なんだもういいのか。じゃ終了」

え、そんなあっさり。
途中でやめるなんて気になるじゃないの。

「ごめんなさい。やっぱり、続けてください……」

もう、意地悪なんだから。

「あとは、俺の胃袋をガッチリと掴まれてしまったからな。新と信が弟だと気付いて、あの絶品ケーキを作ったまひろの好感度はかなり上がった。だけどそれだけじゃなかった。初めて蘭家にお邪魔して食べさせてもらったまひろの手料理には、感動した」

「あ、ありがとう。そんなに喜んでくれてたなんて」

嬉しい……。
さっきやめてもらわなくて良かった。

「俺は家庭的な女を本能的に求めていたんだ、きっと。それに加えて素顔が可愛くて、俺のことだけを一途に想ってくれるお前に惚れているんだよ……俺は」


ど、どうしよう。
今日の翔真はいつもなら照れて言わなさそうな台詞を、サラサラと自然に言ってくれる。

ぶっきらぼうで無愛想な鬼主任が、実は照れ屋で子どもっぽい一面もあって、優しくて愛情深い人だなんて。
知ってるのは私だけだよね。
ありのままの佐伯翔真を感じていられることが、嬉しい。

「おいおい、まだ泣くのは早いんじゃないか?」

慌てて頬に触れてみると、気が付かないうちに涙が……。
翔真が渡してくれたティッシュで涙を拭う。

「どうせまた夜には泣くことになるんだから。アレ、観るんだろ?」

そうだった。
今夜は翔真と私のお気に入りの映画のDVDを観る約束だった。
翔真との初めての夜を過ごしたあの日以来だ。

「私の泣き顔なんて、翔真にしか見せないんだから!すっごくレアなんだから」

「その割にはもう何回も見てるけどな」

「それはっ!!翔真のせいなんだから……」

「まったく。素直じゃないまひろも、丸ごと受け止めてやるよ」

……もう、お手上げ。
素直な私も、そうじゃない私も、ありのままにさらけ出すから。
そのまま、受け止めて。




< 214 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop