real feel
目の前にいる彼女はやつれたように見える。
少なくとも幸せそうには見えないのに、それを喜べるほど私には憎しみが残っていないような気がする。
この人は、幸せの略奪者なのに。

「可笑しいですよ、何もかもが。こうして今、私と麗花さんが向き合っていることも」

「私が言いたいのは、子供のことよ。あの時は私も広美さんも妊娠中だった。広美さんが産んだ子供は10歳よね?私の子供は……産まれることはなかったわ」

それは確かにそうだけど、正直言って私には関係ないこと。
麗花さんが妊娠していたのは知ってたけど、その子供について何かを知ろうとは思わなかった。

「嘘だったんですか?本当は赤ちゃんできたって嘘……」

「嘘なんかじゃないわ!!」

ビクッとした。
突然血相を変えて立ち上がり、怒鳴った麗花さんは私を上から睨み付けていた。

「麗花さん落ち着いて。……とりあえず座ろう。蘭さん、彼女をあまり興奮させないでもらえますか。ここは大人の話し合いってことで。冷静にお願いします」

本宮先生にたしなめられ、私の決めつけた言い方がまずかったと思った。

「すみません何も知らないのにあんなこと言って。事実を教えてください」

麗花さんも努めて冷静になろうとしてるようだった。
彼女にも私の知らない苦労があったのだろうと思えてきた。

「赤ちゃんは確かにいたわ。まだ小さな小さな点にしか見えなかったけど。間違いなく、真行さんの赤ちゃんだった」

その当時を思い出したのか、すごく穏やかで母性に満ちた表情を見せた麗花さん。
だけどそれもほんの一時で、また色を失った表情に戻っていった。

「……流れちゃったの。お腹が急に痛み出して、病院に駆け込んだけど間に合わなかった。この世に産まれることなく、あっという間に私の中から居なくなってしまったの……」

流産……。
それじゃ、その後の10年間でも赤ちゃんができることはなかったんだ。
10年経って、初めて知った真実。

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