real feel

「あれ、佐伯さん。こんな時間に……もしかして忘れ物かい？｣

｢お疲れさまです。はい、ちょっと今夜のうちに確認しておきたいことができまして｣

守衛の田中さんは俺の父さんくらいの歳だろうけど、こんな無愛想な俺にも気さくに話しかけてくれる。

｢そういえば、夕方出入りしていた女性が帰り際にこんなこと言ってたけど。佐伯主任に会ったら『明日は10:00頃に出社予定です』と伝えてくれって｣

｢……それ、本当に俺宛の伝言ですか？｣

｢教事１課の佐伯主任って言ったから確かだよ。えっとね、タカヤナギさんからだけど｣

｢そうでしたか。ありがとうございます。ではちょっと行ってきます｣

高柳、なんのつもりだ。
俺、明日は出社するつもりないし。
勝手にしろよ俺には何の関係もない。

教事１課で自分のデスクを調べたが、どこにも携帯がない。
落としたりしたらさすがに気が付くはずだし、デスクで電話を受けたあと何処にも持っていった記憶はない。

ここにあるはずなのに、ない。
帰るときPCの電源落として……あ。

高柳だ。

あの女が下らないことを話しかけてくるから苛ついてたんだ。
携帯を見なかったかとか、スイーツを買ってきただの、持って帰れだのと。

まさか、アイツが!?

『明日は10:00頃に出社予定』

さっき守衛の田中さんから聞いた伝言を思い出す。
俺の携帯を、高柳が持っているというのか。
今すぐにでも取り返しに行きたいところだが、携帯がないんじゃ連絡の取りようがない。
それに第一、高柳の携帯番号やメールアドレスはとっくの昔に消してしまった。
住所は忘れたわけではないが、家にまで押し掛けるのは気が引ける。
出来るだけ関わりたくない女、だからな。

仕方ない、明日出社して取り戻すしかない。
今夜はまひろに電話もメールもできないのが悔やまれるが、携帯を忘れた俺がバカだったんだ。
とんだ大失態だ。