real feel
自宅に帰り、今日の蘭家での話を思い出す。
両親の離婚がトラウマとなっているまひろにとっては、耳にしたくないであろう話。
しかし、今後の俺とまひろに深く関わってくる内容だけに、話さないわけにもいかない。

先に俺だけに話してくれたのは良かったのかもしれないが、かなり頭を悩ませる難問だ。
何も知らないまひろにどう切り出したらいいのか?

明日は時間かけず、さっさと携帯を取り戻さないとな。
そして、夕方頃に帰ってくるはずのまひろを駅まで迎えに行ってやろう。
きっと疲れて帰ってくるだろうとか、アイツのためを強調する理由を用意しながら、実は短い時間でもいいから会いたいという俺の自己都合だけど。


──4月16日。

気が急いて落ち着かないため9:00から出社して、時間潰しに結局仕事をしてしまう俺。
携帯、無事だろうな?
高柳と付き合ってた時から機種変更してないが、暗証番号は変えてあるから弄られてはいないはず。

「おはようございます、佐伯主任。もしかして、私を待っててくれました?」

「……おはようございます。高柳さんに聞きたいことがあります。昨日、ここに携帯電話を忘れて帰ったのですが知りませんか?」

『お前が持ってるんだろ、さっさと出せよ』と言いたいところだが、敢えての他人行儀を貫く。

「やっぱり翔のだったのね。放置されていたから私が保護しておいてあげたのよ。機種が変わらないから懐かしかったわ。はい、どうぞ」

「どうも、ありがとうございました」

やけにあっさり返してきたのが気にかかるが、これでもうここにいる必要はなくなった。
PCの電源を落としにかかると、不満げに高柳が言った。

「わざわざ休日に届けてあげたのに。なにその態度」

「保護してくれと頼んだ覚えはありませんが」

帰り支度も済み、今度こそ忘れてなるものかと携帯をポケットに入れたのを確認して立ち去ろうとすると、すれ違いざまに腕を掴まれた。

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