real feel
課長の言った通り、到着のホームで待ってくれている佐伯主任の姿が見えた。
熱に浮かされているせいなのか、少しふらつきながら課長に守られるようにして、ホームへと降り立つ。

「大丈夫か?……蘭さん」

主任が心配そうに声をかけてくれるけど、課長はニヤニヤしながら私の代わりに返事する。

「佐伯くん……。さっきは電話で驚かせたけど私、前から気付いてたのよ。蘭さん、明日は出勤禁止ね。有給で処理しておくから、きちんと身体休めること。それではお大事に。お疲れさま」

「ありがとうございます課長。お疲れさまでした」


「まひろ、ほら掴まれ」

差し出してくれた腕に素直に寄りかかる。
いろいろ聞きたいことも言いたいこともあるけれど、こんな状態では何をどう話したらいいのか分からない。
夜間診療に付き添ってくれて、家まで送り届けてくれた主任は

「明日はゆっくり休めよ。おやすみ」

と言って、帰って行った。



──4月20日。

結局、体調が戻るまで3日も仕事を休んでしまった。
佐伯主任は毎日メールをしてくれていたけど、私が返事を返せたのは昨日だけ。

『お陰さまで熱も下がりました。明日から出社できそうです。ご心配おかけしてすみません』

なんとも事務的で可愛くない内容だけど、いまの私にはこれが精一杯だった。
仕事を休んでいた間に考えていたのは、佐伯主任の電話にでた女性のこと。

そして、麗花さんが言ってたこと。

『貴女の存在が私の幸せを奪ったのよ……』

私が、幸せの略奪者だから?
だから私の幸せも奪われてしまうというの?
佐伯主任は電話のことは何も言わない。
女性が通話にでたってことは、不在着信履歴には残らないだろうけど、着信履歴は残るはず。

もしかして消されてしまった!?
私がかけたことを主任は知らない?
あの女性が誰なのか分からないけど、主任とは親しい間柄ってことだよね。

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