real feel
「本当は、1年前に異動の予定だったんだ。それを1年延期ということになってるから、4月の異動はもう確実。"決定事項"ってやつさ」

もし、1年前に異動していたとしたら、俺とまひろはすれ違いになっていた。

「1年延期の理由は?」

「……俺が、ゴネたんだ」

…………は?
ゴネたって……。

「どうしても、まひろを俺の元に置いときたかった。たった1年でも、上司としてアイツを助けてやりたいと思って」

「それが、まかり通ったんですか」

「まさか!そこはもっともらしい理由をつけて。俺そういうの得意だからさ」

やっぱりイチにぃは過保護なんだな。
だけどその過保護のお陰で、俺はまひろと出逢うことができたんだから、感謝すべきだろう。

「じゃあそのお得意のもっともらしい理由を作ったらどうですか」

「さすがにそこまでは。これ以上の我儘となると部長クラスにならないと無理だろ。それか強力な後ろ盾でもないとな……」

……強力な後ろ楯、か。
権力に屈するほど屈辱的な事はない。

「こればっかりは俺の力でなんとか出来るわけでもないし。納得はできませんがね」

「まぁでも、1年前に教事1課に来たばかりの時には今の状況は予測できなかったな。お前さぁ、まひろの第一印象最悪だったろ?」

そうだな、最悪だった。

「翔だって、まさかこうなるとは思ってもいなかっただろうな」

「……ああ。俺はもう社内恋愛なんて、まっぴらだと思ってましたから」

そう、あんな思いは2度としたくない。
だけど、まひろとだったら大丈夫だっていう根拠のない自信を持ってる俺。

「それでな、翔。まひろと入れ違いに異動して来る女性社員だけど」

「別に関心ないですよ。誰が来たって同じだろうし」

「そうだと良かったんだけど、そうでもなさそうだぞ?営業から異動して来るのは、高柳夕梨(たかやなぎゆうり)さん、だよ」


< 5 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop