real feel
「……あの初めてキスしたときには、お前に堕ちていたんだからな」

忘れていたことを今更『悪かった』と謝るよりも、こっちの方が効果的だろ、きっと。
案の定、顔を真っ赤に染めて固まったまま俺を見つめるまひろ。

「もう、ズルいんだから……主任」

解ればいいんだ。
俺がどれだけお前に惚れているのか、思い知ればいい。
そして、お前もこれ以上ないってくらいに、とことん俺に惚れればいい。

俺が今こんなことを考えているなんて、知りもしないだろうな。
知られるわけにはいかない。
もし知られてしまったらドン引きされるだろうから。

俺がこんな風になったのも、お前のせいだぞ……まひろ。
こうなったら、責任とってもらわないと。
あぁ、早く…………結婚してぇ。
いつまで待てばいい?

プロポーズの言葉、考えとかないとな。



──再び4月1日。

…………遅いな。
風呂に何故こんなにも時間がかかってるんだ?
この俺を焦らしているのか。
よく考えてみれば、今日は会社から直接旅路についたんだし、あの仮面を剥がすのにも時間が掛かるのかも知れない。
それにしても、一緒に風呂に入らない理由が

『ホテルのバスルームって狭い』

だって……。
それなら次の旅行は温泉で決まりだな。
宿泊部屋に小さな露天風呂が付いているような温泉宿がいい。
そんなことを考えているうちに、風呂上がりでスッピンのまひろが戻ってきた。

「お待たせしました主任。さ、どうぞ」

「ん、じゃあ遠慮なく」

そう言いながらまひろに近付き、温まって潤っている唇を奪う。

解っている。
『どうぞ』っていうのは、風呂に入ってこいっていう意味だってことくらい、解っている。
ただ、目の前に差し出された美味しそうな唇を放っておけなかっただけだ。

「俺も風呂行ってくる。今夜は寝かさないから……そのつもりで」

まひろの誕生日だからな。
嫌っていうほど、可愛がってやるよ。


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