real feel
第5話

未必の故意

──5月19日。

また週末がやって来た。
今日は小久保課長が私の歓迎会をするから空けておいてと言っていた日。

その課長は……いま会社にはいない。
今週は出張のはしごで、会社に戻って顔を見せたのは2回だけだった。
昨日の夕方に一旦帰社して、今日はまた別件で朝から日帰り出張らしい。

「蘭さん、明日のお店は駅の近くの小料理屋にしたから。19:00に駅前のバス停で待ち合わせよう。それじゃ明日はよろしく!」

他の課員には聞かれないようにこっそり私に告げると、慌ただしくまた出ていこうとする課長に尋ねた。

「あっ、あの、他のメンバーは?」

「ああ、ごめんそれは当日のお楽しみってことで!だから他言無用だよ。じゃ急ぐから」

何サプライズですか?
そんなのいいのに、面倒な人だな課長って。
溜め息が溢れた。
駅近の小料理屋さんっていえば、"花里"だろうな。
昨日、佐伯主任にも連絡したから大丈夫だよね。


課長が出張でいない間、指示を受けていた事務処理とお客さまからの電話対応などやってたけど、暫くすると手持無沙汰になっていった。
気を利かせて、指示されていない分もやってしまったほうがいいんじゃないかって思い課長のデスクに近付こうとすると、池田さんから止められた。

「小久保課長のデスクは触らない方がいいよ。課長ね、自分のデスクを誰かに弄られるの嫌うから」

「そうですか。課長がいらっしゃらない間になにかできることがないかと思いまして」

「あ、じゃあちょっとこっちの仕事、頼まれてくれる?」

仮にも課長の補佐をしている私がこんなに暇を持て余してていいのか?なんて思ったけど、営業には営業のルールみたいなものがあるらしい。

"補佐"という役割は、思ったほど重責を担うものではないらしく、だからこそ一時的に腰掛けでやってきた私には打ってつけだったのだろう。
それに、課長は普段から出張が多いらしい。
"補佐"とは名ばかりで、飼い殺しみたいな扱いなのかも。

それならば、こちらもそれなりに適当に合わせていればいいのだろうけど。
事務所を見回し、忙しそうにしている人に片っ端から声をかけ、雑用でもなんでも買って出ることにした。

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