real feel
……高柳さん。
何か、大事なことを思い出しそうになったけど……。
何だったかな……?


午後からも雑用をこなしてると、あっという間に時間が過ぎていった。
普通なら新人がやるような雑用をやる人がいないのかと不思議だったけど、新人はなかなか続かないうちに辞めてしまうケースが多いようだった。

そして今年の新入社員は、全員今回の"人事交流"対象者となっているため、他の部署に修行に行っているらしい。
私は所詮"余所者"なんだし、雑用でもやってた方が気が紛れて助かる。

みんな週末だし、課長は不在だし、浮き足立っているのか。
定時を過ぎると個々に仕事を切り上げていく。
営業マンも今日は残業もそこそこに帰り支度を始めている。

「課長がいない週末って早く上がれるチャンスだからな!じゃあ蘭さんもお疲れさん」

この分じゃ時間に遅れないでよさそう。
あまり気は進まないけど、支度して行かなきゃ。



──18:50。

駅前のバス停に着いたけど、課長の姿は見えない。
ちょっと早かったのかな。
だけど、課長を待たせるなんて非常識だし。

「蘭さんお待たせ!お疲れさま」

課長はすぐにやって来た。

「お疲れさまです、小久保課長。他の方は直接お店の方に?」

「あ、ああ。とりあえず行こうか」

歩き出した課長に慌てて着いていく。

「課長、そちらですか?駅近では……」

「いいから、こっちこっち」

促され、タクシー乗り場から2人でタクシーに乗り込む。

「あの、課長……。どちらに向かってるんですか」

そこで課長はニヤリと悪戯っぽい顔で言った。

「これから……蘭さんを秘密の場所"密会現場"に連れていってあげるよ」

ど、どういうこと……。
"密会現場"だなんて!
どうしよう、今更引き返すことなんてできない。
一体、何処に連れていかれようとしているんだろうか、私。

「さあ、着いたよ。降りて」

ついた場所は、見た感じ"高級料亭"といった感じのお店。

「ここはね、会社の上層部の人間や有名人なんかもお忍びで訪れるような場所だよ。蘭さんは来るのは初めてかな?」

こんな場違いな場所に、私なんかが来れるはずあるわけない。

「もちろん初めてです。でもどうしてここへ?」

「まあ、話は中でゆっくりと、ね」




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