real feel
「あー今日も美味かった。ありがとな」

言いながら頭をポンポンと優しく触れてくれる主任。

「……いいえ、どういたしまして」

弛んでいく頬を止めることも出来ず、たった一言を返すのが精一杯な私。
食事の後、いつものように見送りに出てきた。
そして、定番になりつつある短時間のドライブ。

『マンションのエントランスじゃ、人目が気になるだろ?』

別れを惜しむには足りない……なんて、照れながら私の手を引いて車に乗せるのも定番となりつつある。
エントランスの隅っこの方で、甘く情熱的なキスを交わしたこともあったなぁ……。
あんな誰から見られてもおかしくないような場所なのに……。
ま、見られてなかったのは幸いだけど。

「体調は?胃が痛いとか言ってたけど、本当に調子悪いんじゃないか?」

「大丈夫ですよ、しっかりご飯も食べてますから!食べ過ぎて困るくらい」

「…………嘘吐くの意外と下手だな。まひろ」

……え?
今日は雑炊にしたからいつもより頑張って食べた方だけど。
主任と一緒にキッチンに立ってご飯作るなんて楽しかったし、いつもより食欲もあったほうなのに。

「聞いたぞ。最近食欲がないらしいな?食べる量が前に比べて減ってるって。どうしたんだ、まひろ」

もしかして、新?
さっき2人でこそこそ話してたよね。

「広報に異動して間もないのに、今度は営業だなんて。落ち着かないし、仕事でストレス感じるのってもしかしたら初めてなのかもしれません……」

……嘘じゃない。
だけど、納得していない様子の主任。

「営業1課では、あの男の補佐なんかやらされてるんだろ?ふざけんなって言ってやりてぇけど。もうちょっとの辛抱だから、とにかく用心には用心を重ねて警戒を怠るんじゃねーぞ。いつでも携帯鳴らしてくれていいから。今度こそ分かったか?」

「はい。重々承知しました。だから……」

『私の心を満たしてください』

声にならない想いが伝わるようにと、目を閉じて主任が唇に触れてくれるのを待った。


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