First Snow




ふぅ…と深く深呼吸してドクドク跳ねる心臓を落ち着かせようと胸元に手を置いた。

軽く顔をあげて視線だけをその男へと移した。


「えっ…」


なぜか私の視線に気づいたかのようにその男は私の方へと顔を向け、先程ばったり出くわした時のように驚いた表情をしてみせる。

その男の周りにいた人間たちも男の視線を追うようにこちらへと顔を向ける。

ビックリして不自然なくらい勢いよく顔を逸らした。



「純花どうしたの?まだ苦しい?」

「いや…そういうのじゃなくて…」

「えー何?純花具合悪いの?大丈夫ー?」


茜が私の顔を覗き込んで大丈夫?と背中をそっと摩る。

そんな様子に周りにいた友人たちも不思議そうに私の顔を覗き込む。


「さっき走りすぎちゃったみたい」


アハハと笑って誤魔化して何事もなかったかのように振る舞った。

それならいいけど〜と友人達は再び他愛もない会話を始め、茜は私とさっき会った時の話を始めた。


なんとなく耳にはその会話は入ってくるけど、心あらず。

同じ空間にあの人がいる。

それだけで私の心臓はうるさいくらいに鳴り止まない。


そうこうしているうちに『ご来場の皆様お待たせいたしました。挙式会場へとお移り下さい』というアナウンスが流れ、再び深呼吸をし足を踏み出した。
< 6 / 29 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop