大和撫子物語
「とても、美しいです。花が輝いて見えます」

ありきたりな言葉しか話せないことに、エレナは時雨に嫌われたらどうしようと焦る。しかし、時雨は「ありがとうございます」と微笑んでくれた。

「よかったじゃ〜ん!」

そう小声で言いながら、蛍と結衣がエレナをツンツンと突いた。



時雨にエレナが恋して数ヶ月。季節は秋に変わった。紅葉が赤く染まっていき、その美しい光景にエレナは見とれる。

「ウクライナでは見られない光景ですね」

エレナの隣には時雨が。エレナが屋上でぼんやりしていた時、たまたまやって来て今は隣に並んで景色を見ている。

「本当に綺麗です」

そう言い、エレナが横を向けばいつもより近い顔がある。エレナは手を伸ばせば簡単に触れられる距離にいることに、気持ちを抑えることなどできそうになかった。

「私も、季節が変わっていくのを見るのが好きです。一番好きなのは春ですね。桜の花は本当に綺麗ですよ」

エレナが転校して来たのは五月だったため、もう桜は散ってしまっていた。
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