大和撫子物語
エレナが着替え終わると、時雨はエレナの制服についたジュースをウエットティッシュで拭いている最中だった。エレナに気づき、慌てて時雨は謝る。

「申し訳ありません。このままではベタベタしたままだと思いまして……」

「い、いえ!謝ることでは……。その……ありがとうございます」

エレナはそう言い、謝り続ける時雨を止める。謝るのを止めた時雨は、じっとエレナを見つめた。

「……着物は着るのは初めてです」

照れながらエレナは言う。好きな人に見られてることにエレナは胸を高鳴らせた。

「よくお似合いです」

時雨は微笑み、エレナの手をそっと取った。

「屋上に行きませんか?」

屋上に行くと、空には大きな月が姿を見せていた。エレナは父から聞いた話を思い出す。

「確か、月にはうさぎがいるんですよね。父に幼い頃に聞いたことがあります」

「国によって月にいるとされるものは違うそうですね。女性であったり、蟹であったり、犯罪者という国もあるそうですね」

そんなことを話しながら、エレナと時雨は空を見上げる。その時、時雨が言った。
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