欲しがりな幼なじみ
掴まれた私の右手首を見ながら、そう言う。
いつもなら、微妙な距離を保って私の前を歩くのに。
今日はどうして、こうやって手首を掴んで、私の隣を並んで歩くの。
「電車混んでるし。前はお前から俺の腕掴んできただろ」
「それは電車に乗る直前ね!?」
ここはまだ駅じゃない。
マンションのエレベーターの中だ。
ま、まさか、この状態のまま駅まで歩くつもり?
「何か文句ある?」
「ありまくりだよね」
どうにかして離れようと腕を振るけど、
男の由良くんに力で敵うはずもない。
まずい。
非常に、まずい。
心臓が痛い。
マンションのエントランスを抜ける。
いつもより早いだけあって、駅までの道のりは静かだった。