願いを込めて
こんな化け物で、怪物で、週に1度は人の血を飲まないと生きていけなくて、幼少期には血を飲みたくて我慢出来ずに実の親の腕を目掛けて牙を向いた事もある私を。


彼の前にいた時の私は、少なくとも素の私ではない。



全て、彼と私の為に演じてきた姿だ。



けれど、今日私は今まで積み重ねてきた努力と苦労を全て水の泡にする。



彼の血を飲めれば、彼と今日限りで別れてもいい。



覚悟は出来ている。




503号室に着いた私は、1度大きく深呼吸をしてからノックをして引き戸を引いた。




「蓮ー!元気だった?」



この病室にはベッドが2つあって、蓮のベッドは手前側。



窓側にもベッドがあって、最近まで盲目の少女が入院していたけれど、この間退院してしまった。



入院中に出来たらしい彼氏さんと、目を合わせて幸せそうに笑っている姿は何度も見掛けた。



最も、彼氏さんの方の顔はあまり見た事がないけれど。



私も、そうやって蓮とまた笑いながら歩きたい。




「さくら!来てくれたんだー、何、今日ハロウィンだから仮装してるの?似合ってるじゃん!」



体調はぼちぼちかなー、と、誤魔化す様に笑った彼の髪の毛は、ほとんど抜け落ちていて。



今はニット帽を被っていて、その顔色は青白い。



「本当?良かったー、今日は蓮に伝えたい事があるから気合い入れてきたんだ」
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