願いを込めて
私は、自分の尖った八重歯を見せてにっこりと笑った。



いつもは隠すのが大変ー抜こうか迷う程邪魔な存在だったーな八重歯も、今日だけは何の躊躇もせずに見せる事が出来る。



「え、何何?どうしたの?」



私に会えて余程嬉しいのか、彼は笑顔を絶やさずにそう聞いてきて。



「あのね、」



私は、彼のベッドの隣に椅子を持ってきて腰掛け、彼の目を見て口を開いた。



「トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃいたずらするよ?」




彼は、この言葉に込められた私の想いになんて気付いていないはず。



それに、彼がお菓子を持っていない事は確実だから。



「…え?僕お菓子なんて持ってないんだけど…?」



予想通り、彼はそうやって返答してきた。



「そうだよね。…じゃあ、」



私は、沢山の想いが込められた台詞を深呼吸をしてから言葉にした。



「いたずらしちゃうね、蓮」





意味が分からずに首を傾げる彼に、私は笑顔を作って説明した。



「蓮。……これから話す事が蓮にとって嫌な事だったり、されたくなかったら…、私と別れて欲しい。でも、これをしないと蓮は……、元気にならないかもしれないの」



これは、いたずらという名の賭け。



彼が首を縦に振らない限り、私は彼に噛み付く事すら出来ない。



とは言っても、今の私の心中は今すぐ彼の血を飲みたくてうずうずしているのだけれど。
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