【完】STRAY CAT
恭と過ごす毎日はいつも楽しくて、幸せだ。
授業に出なくなってしまったわたしに、先生たちは困り顔をしていたし、一度家に押しかけられたこともある。
けれどお母さんの答えは、わたしが髪を染めたときと同じだった。
「人に迷惑をかけていないなら、自由にさせてください」と。
ただ、それだけ。
校則違反の髪色について先生に言われたときも、「この子は一度決めたら変えませんよ」と、むしろ先生のことを宥めるみたいにそう言ってくれた。
「そこのおふたりさん。
いくら自由にさせてもらってるからって、学校内での不純異性交遊は控えようね」
お母さんに心配も迷惑もかけたくないのに、ついつい困らせてしまってるのは、わたしがまだ幼い子どもだからで。
はやく、大人になれたらいいのに。
そしたら、お母さんと蒔のことを、もっともっとしあわせにしてあげられるのに。
笑顔で、三人で、ずっと暮らしていけるのに。
時は間違いなく過ぎていくし、止まることなんて赦されない。
それなのにもっとはやく、と急いてしまうのは、わたしの悪い癖だろうか。
「っ、春野先生……!」
とつぜん。
ガチャッと扉が開いたかと思うと、中に入ってきたのは保健医の春野先生だった。
この部屋は一応内側から鍵をかけられるけど、いかがわしいことをしていると疑われても面倒だから、鍵は常に開けっ放しになっていた。
それに、開けていても誰も入ってこないし。
だからこそ油断していて、あわてて恭から離れる。
第三者の介入のせいか、それともわたしの慌てようなのか、恭の表情はとても不機嫌そうだった。
「……なんの用だよ」
「もう、邪魔したからってそんなに怒らないで。
ちょっとだけ、花蔵に用事があって」
ちょいちょいと、先生が手招きする。
面倒そうにしながらも、恭は素直にそれに従った。