【完】STRAY CAT



ぴら、っと恭が見せてきたのは、何かのチケット。

受け取ってよく見てみれば、『完成試写会ご招待』の文字。……映画の招待券?



「借りた、って……

恭と、すこし話してきただけなのに?」



「っつー名目で、押し付けてきてるだけだけどな。

こないだ彼女に振られたから、行く相手いねーんだと」



いっしょに行くか?と。

首をかしげられて、思わず笑顔になってしまう。



「行ってくれるの?」



「ん。……たまにはいーだろ、出掛けんのも」



恭とデートなんて、ほとんどない。

学校でもずっと一緒で、放課後に家に来てくれることも多いから、いまさらどこかに出かけることもなかった。あったとしても、長期休みに一度あればいい方。




「でもこれベタベタのラブストーリーだよ?」



だからこそ、デートしたい気持ちはすごく強いけど。

恭はラブストーリーなんか見ないだろうし、とすこしだけ落ち込む。



テレビでも公開予定でたくさん宣伝していた、王道ラブストーリーの映画。

観たいなぁ、とすこしだけ思っていた作品だ。



「……行きたいんじゃねーの?」



「うん。行きたい、けど、」



「んじゃ、決定な」



……行ってくれるんだ。

観たい訳でもなさそうなのに、わたしとデートするために、行ってくれるんだ。



< 108 / 351 >

この作品をシェア

pagetop