【完】STRAY CAT



「お母さん、これ変じゃない……!?」



「ふふ、心配しなくてもだいじょうぶ」



映画デート、当日。

幸いなことに試写会は日曜日に行われる予定だったから、蒔の面倒はお母さんが見てくれることになった。



朝から慌ただしく服を合わせるわたしに、くすくすと笑っているお母さん。

悩みに悩んで服を選び抜くと、今度は忙しなく髪を巻く。



恭が迎えに来てくれるまでは、あと30分。

自分で髪を巻くには、ギリギリになりそうだ。



「鞠。……ちょっとそれ、貸して?」



ドレッサーの前に向かい合ったわたしの手から、お母さんがヘアアイロンを受け取る。

そして、長いピンクの髪を、くるくると巻いてくれた。




お仕事上、お店の子たちの髪をセットしてあげることも多いらしく。

器用なお母さんの手で、あっという間にヘアセットが完了してしまう。



ただ髪を巻くだけのつもりだったのに、左耳の上で編み込んで、ぐんとおしゃれにしてくれた。

自分じゃ出来ないけど、すごくすごくかわいい。



「ありがとうっ。そろそろ出なきゃ、」



「じゃあ、そんな鞠におまじない」



ドレッサーの引き出しから、お母さんが口紅を取り出す。

そして、ほんのりと色づくように口紅を塗ってくれた。



「素敵な一日になるおまじない、ね」



ピンポーンと、ベルが来客を知らせる。

それにハッとして、もう一度お母さんにお礼を言ってから、荷物を持って家を出た。



< 110 / 351 >

この作品をシェア

pagetop