【完】STRAY CAT
「お母さん、これ変じゃない……!?」
「ふふ、心配しなくてもだいじょうぶ」
映画デート、当日。
幸いなことに試写会は日曜日に行われる予定だったから、蒔の面倒はお母さんが見てくれることになった。
朝から慌ただしく服を合わせるわたしに、くすくすと笑っているお母さん。
悩みに悩んで服を選び抜くと、今度は忙しなく髪を巻く。
恭が迎えに来てくれるまでは、あと30分。
自分で髪を巻くには、ギリギリになりそうだ。
「鞠。……ちょっとそれ、貸して?」
ドレッサーの前に向かい合ったわたしの手から、お母さんがヘアアイロンを受け取る。
そして、長いピンクの髪を、くるくると巻いてくれた。
お仕事上、お店の子たちの髪をセットしてあげることも多いらしく。
器用なお母さんの手で、あっという間にヘアセットが完了してしまう。
ただ髪を巻くだけのつもりだったのに、左耳の上で編み込んで、ぐんとおしゃれにしてくれた。
自分じゃ出来ないけど、すごくすごくかわいい。
「ありがとうっ。そろそろ出なきゃ、」
「じゃあ、そんな鞠におまじない」
ドレッサーの引き出しから、お母さんが口紅を取り出す。
そして、ほんのりと色づくように口紅を塗ってくれた。
「素敵な一日になるおまじない、ね」
ピンポーンと、ベルが来客を知らせる。
それにハッとして、もう一度お母さんにお礼を言ってから、荷物を持って家を出た。