【完】STRAY CAT



「あ、」



あわあわしながらも、キスしたせいで恭のくちびるに薄く口紅がついてしまったことに気づく。

繋いでいない方の手を伸ばしてそろりとくちびるを拭うように触れたら、手首を掴まれてしまった。



「な、なに……?」



恭の身長は高めだから、若干の背伸び。

その状態のまま捕えられてしまったせいで、いつもより近くにある恭の顔に、どきどきしてしまう。



「……すぐ落ちそーだな」



「え?」



すぐ落ちそう? なにが……?

慌てふためきすぎて、言葉の意味も上手く噛み砕けない。




「だから。……口紅」



「口紅、って、」



口紅が、すぐに落ちてしまう。

その原因となるものが、この状況だと頭の中にはひとつしか思い浮かばない。そうなれば、意識してしまうのはとても容易いことで。



「っ、」



そ、それは……

たくさんキスする、ってことで、よろしいでしょうか……?



「……、行くぞ。

あんま遅くなると、映画の時間に間に合わねーから」



また何も言えなくなったわたしの手を引いて。

恭が先に歩き出すから、その背中をじっと見つめる。



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