【完】STRAY CAT
わたしよりも大きな背中は、いつだって強く見えた。
だから、どうしようもなく焦がれた。
「ねえ、恭……」
はじめて出会った時に、そのまばゆい髪色を見て、とても綺麗だと思ったの。
こんなことを言っても恭は信じてくれないだろうけど、なんの根拠もなく、好きになると思ったの。
だって、わたしの世界が変わったから。
お母さんと小さな妹と、三人で暮らしてきたわたしの世界は、とても狭かった。たくさん勉強していい大学に入って、その成績を買ってもらえたら、ふたりをしあわせにできると思ってた。
だから、とてもおどろいたのを覚えている。
こんなにも自由を赦された、彼の存在を。
「……すき、」
苦しんでないわけじゃない。
ただ、ラクに過ごしているわけじゃない。
それでも。
まわりに揺らがされない世界を持った彼を、ただただ美しいと思ったあの瞬間から、わたしの恋ははじまった。
「……俺も」
振り返って、恭が笑ってくれる。
わたしの好きな、眩しいくらいの恭の笑顔。
「気が向いたから、走ってくか」
「えっ、わたしパンプス……!」
「じょーだん。……ほら、行くぞ」
手を伸ばさなきゃ、きっと掴めなかった彼の手。
離すことなんて、絶対にない。