【完】STRAY CAT
◇
「夜分遅くに失礼致します」
無機質な声。感情も色もないそれ。
なのにわたしの心を、ひどくかき混ぜてしまう。
表情のひとつすらも冷静なまま崩れることはなくて、また心の奥がすこし波打つのを感じた。
……いけない。揺らされたら、負けだ。
「こんな時間に何の御用ですか?
……万が一蒔が起きたら、すぐに帰ってください」
何の御用ですかと尋ねてはいるけれど、一応来訪は先に電話で聞いていた。
なんでも、渡したいものがあるとかで。
「もちろんそのつもりです。
……すみません、ありがとうございます」
音を立てないようにリビングに通して、コーヒーを出す。
深夜1時にコーヒーを出せば眠れなくなる、というわたしの軽い嫌味だが、この時間に尋ねてくる客に対して、それくらいの反抗は許されると思う。
お礼を言っても、にこりともしない。
……本当に、社長秘書なんだろうか、この人。
「先日お送り致しましたドレスですが……
如何ですか? お気に召されましたか?」
「ああ……開けてもないです。着たくないので」
届いた箱のまま、クローゼットの空きスペースへと押し込んだ。
何なら、"パーティー"なんてものも、そのまま閉じ込めて忘れたかのようにすっぽかしてしまいたい。
「そうですか。
あのドレス、社長がお選びになったんですよ」
「……へえ」
「とても嘆いておられました。
1年以上、大切な娘たちに会えていない、と」