【完】STRAY CAT







「夜分遅くに失礼致します」



無機質な声。感情も色もないそれ。

なのにわたしの心を、ひどくかき混ぜてしまう。



表情のひとつすらも冷静なまま崩れることはなくて、また心の奥がすこし波打つのを感じた。

……いけない。揺らされたら、負けだ。



「こんな時間に何の御用ですか?

……万が一蒔が起きたら、すぐに帰ってください」



何の御用ですかと尋ねてはいるけれど、一応来訪は先に電話で聞いていた。

なんでも、渡したいものがあるとかで。



「もちろんそのつもりです。

……すみません、ありがとうございます」



音を立てないようにリビングに通して、コーヒーを出す。

深夜1時にコーヒーを出せば眠れなくなる、というわたしの軽い嫌味だが、この時間に尋ねてくる客に対して、それくらいの反抗は許されると思う。




お礼を言っても、にこりともしない。

……本当に、社長秘書なんだろうか、この人。



「先日お送り致しましたドレスですが……

如何ですか? お気に召されましたか?」



「ああ……開けてもないです。着たくないので」



届いた箱のまま、クローゼットの空きスペースへと押し込んだ。

何なら、"パーティー"なんてものも、そのまま閉じ込めて忘れたかのようにすっぽかしてしまいたい。



「そうですか。

あのドレス、社長がお選びになったんですよ」



「……へえ」



「とても嘆いておられました。

1年以上、大切な娘たちに会えていない、と」



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