【完】STRAY CAT
「ええ、ご結婚は再来年の3月に。
……ですので、それに向けての、御準備を」
「ハセ……紘夢側と、話はついてるの?」
「いえ、これからです。
ですが、橘花からの婚約話を持ち掛けられて断る相手など、この世には存在しません」
御安心ください、と黒田さんが続ける。
……この状況のどこに、安心しろと言うのか。
「……もうすぐ終わるのね」
ぽつり。こぼれたのは、途方もない未来への本音。
もうすぐ自由な生活も終わる。それでも、蒔と引き離されることに比べてみれば、よっぽどマシだった。
わたしの何よりも大切な、唯一無二の宝物。
「誕生日パーティーで、ぜひお嬢様の婚約について発表をしたい、と。
社長が申しておられました。如何なさいますか?」
……ああ。だから、わたしに参加しろ、と。
ドレスなんて送ってきたのか。断らせる気なんて、はじめから無いに等しいというのに。
「そんなの、」
言わなくても、と。
開きかけた口を閉じて、リビングの扉を見やる。
その瞬間に、かちゃりと扉が開いた。
……どうやら、蒔が目を覚ましてしまったみたいだ。
「おねえ、ちゃん?」
まだ眠そうな妹を呼ぶと、近寄ってくると同時に彼のことを不思議そうな顔で見つめた。
蒔には会わせないようにしていたから、その反応も無理はない。