【完】STRAY CAT
しかしながら、関わりが敵対するチームにバレてしまった割には特に音沙汰もなく。
ただ夜中に軽い世間話をするだけで、わたしも彼も恋愛感情なんてものはお互いに抱いていない。
これは何も、わたしの思い込みじゃなくて。
事実彼には、「何かあっては困るから藍華の幹部たちにすらも教えていない彼女」がいることを、わたしにだけ教えてくれた。つまり相互の認識である。
「え、と……まって、近い」
だからこれは、あの喧嘩に遭遇した件をカモフラージュするための作戦だってことはわかってる。
わかっているけども。こんなに綺麗な顔を至近距離で見せつけられたら、さすがに動揺するからやめてほしい。
「おい、あすみ」
「……いい加減離してくんねえかな、俺のなんだけど」
指で頬を撫でられて、雰囲気に圧されそうになる。
何も言えずに顔を逸らしそうになったけれど、それよりはやく、ハセがわたしの腕をまた掴んで引き寄せた。
「鞠のこと狙ってんなら、それこそ会わせらんねえよ」
「え、ちょ、ハセ、」
「いいから帰るぞ」
いつもよりも低くなった声に、押し黙るわたし。
……常に優しいハセが、めずらしく怒ってる。
だから文句も言えなくて引っ張られながら、一度だけ振り返ってみれば。
あすみくんが、みんなから何か言われているのが見えた。
雰囲気から察するに、わたしを狙ってるって発言が良くなかったんだと思う。
だからって、どうしてあげることもできないけど。
そのままあっという間にたどり着いたマンション。
気づけばハセの手はわたしの腕を離して、強く手を握っていた。……離れるな、って、そう言ってるみたいに。