【完】STRAY CAT
手を振り払われたあの瞬間を思い出すだけで、眉間が寄る。
納得しようとしてはいるけれど、昨日の行動ができていないことへの何よりの証拠だった。
結局あの後鞠の手料理を食べることが出来たのは、昼とはさすがに呼べない夕方で。
遅すぎる昼飯を済ませて、蒔が帰ってくる時刻付近に、鞠を見送った。
抱きしめてやったら、胸に顔埋めてくるし。
キスしたら、俺の服握って応えてくれたりするし。
受け入れようとしてもらえているだけで、大きな成長なのに。
どうして人は、"貪欲"にもそれ以上を望んでしまうのか。
鞠のあの鉄壁は、蒔のために努力してる表向きの自分だ。
簡単には折れてしまわないように、自分自信が強く在るための。
内側は、きっとみんなが思ってるほど、強くない。
だから、思わず守ってやりたくなる。
鞠が傷つくことの、ないように。
大事に大事に守って、愛してやりたくなる。
「あのっ、ハセくん……っ」
「ん? どした、糸井」
「……あ、の」
教室にもどる途中で呼び止められて、足を止める。
昨日鞠と教室で口論になったせいか、鞠の唯一の友だちである糸井は、今朝からずっと肩身が狭そうだった。
まあ確かに、内容が内容だったし。
鞠のことを利用していたとしか言えない内容を聞いて、糸井に手を差し伸べてくれる友だちは少ないだろう、と思う。
でも鞠は別に、そこまで怒ってない。
……元はと言えばふたりの喧嘩の原因らしい、俺が言えたことじゃねえけど。
「わたし……っ。
ほんとはずっと、ハセくんのこと、好きで……」
……あ、まじか。これまさかの公開告白?
いやでも、俺と鞠が付き合ってんのは生徒どころか教師にまで話が行ってるみたいだし。前からなぜか俺は応援されてて、今回のことで先生たちに「お似合いねえ」とまで言われたほどだ。