【完】STRAY CAT



「……なに驚いた顔してるの」



いや、驚くだろ。

それでなくともお前、俺のこと付き合ってからもハセって呼んでたじゃん。……そりゃまあ、俺が何度か強請って、呼んでくれたりもしてたけど。



「……、どした?」



とにかくそれよりも、俺を呼び止めたからには用があるんだろう。

そう思って優しく聞き返せば、鞠がめずらしく微笑んだ。



そのせいで、ざわざわと周囲が騒がしくなる。

……鉄壁の女、だったはずだもんな。



「……ありがと、ね」



何がきっかけだったのかは、わからない。

もしかすると昨日、元カレと遭遇したことが原因かもしれないし、俺が穏やかでいられなかったせいかもしれないし、それとも糸井が原因なのかもしれない。




だけど。

何か鞠にとって、良い影響を与えたことはわかる。



「ん」



今までは見せたことなんてなかった、鞠の綺麗な笑み。

それを俺に向けてくれるその意味は、なんとなくわかるから。



「嬉しそうだね、ヒロ」



「……まあ、な」



思わず緩む頬を簡単に指摘されるほどには、俺はわかりやすいらしい。

鞠と糸井も無事に仲直りをしたようで、数分もすれば、仲良く話しながら教室にもどってきた。



……そう、いえば。



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