【完】STRAY CAT
「鞠、親と会うって話だけどさ」
俺は、鞠の家族を蒔以外に見たことがない。
どうやらふたりで暮らしてるみたいだから変に聞くこともできなくて。でも昨日、鞠ははっきり"父親"って言った。
……まああのマンション、最上階ってかなりの金持ちじゃねえと住めないし。
鞠がネットなんかを使って稼いでる様子もないから、誰かしら養ってくれる相手はいるんだろうけど。
「ああ、うん。わたしはいつでもいいけど」
「や、その前に蒔に言わせてくんね?
蒔が鞠のことすげえ好きなの知ってるし、先にちゃんと付き合ってること言っときたい」
本当にふたりで、暮らしているんだとしたら。
言い方は悪いけど、蒔から大事な姉を奪ってしまうようなものだ。
もちろん実際には、何かが大きく変わるわけじゃない。
蒔が鞠を好きな気持ち以上に、鞠が蒔を大事に思ってることだって、ちゃんと知ってる。
だけどきっと、どこかで気を遣うだろうから。
本当は隠しておいたほうがいいのかもしれないけど、これは俺なりのケジメみたいなものだった。
「わかった。
……でも、もう言わなくても気付いてると思う」
「蒔にそれっぽいこと言った?」
「ううん。
でも昨日、"お姉ちゃんのいちばんは蒔?"って聞かれたから」
俺とは目線を合わせずに。
つぶやく鞠の表情が、切なげに翳る。
「ああ……そうだ。
蒔には父親がいること、言わないでね」
鞠が願う幸せは、蒔の幸せだ。
だからこの先俺は鞠と同じように蒔のことも守るし、それこそ蒔の幸せを鞠が見届ける時、鞠と一緒にいられるのが俺だったらいいと思う。