【完】STRAY CAT
今はまだ、形が歪ではあるけれど。
「言ってねえの?」
「……知ったところで、良いことなんて何もない」
それを聞いて思い当たることは、ただひとつ。
付き合うことになった時、俺は鞠の「婚約者」発言に対して、大きく驚くこともなかった。
知っていた、に、近いんだと思う。
もちろん婚約者のことは、知らなかったけど。
「お前の親、橘花コンツェルンの社長だろ?」
数々の業界に幅広く店を展開している、巨大な親会社。
"たちばな"って名字は別段めずらしくもないけど、漢字が「橘花」だったから、うっすら気付いてはいた。
学校のヤツらも、なんだかんだ気付いてると思う。
俺が鞠に言い寄ってるのは「逆玉の輿」を狙ってるからなんじゃないかって言ってるヤツ、前にいたしな。
ウチもおかげさまで右肩上がりの実績を持つ有名会社になってはいるし儲かってるけど、橘花コンツェルンなんて本当に桁が違う。
全国屈指のご令嬢だって言ってもおかしくない。
最近は今後に向けて海外との連携もいろいろやってるみたいで、
ニュースなんかでも橘花の名前はよく見かけるけど。
「……そう、ね」
「………」
誰しも家族とうまくいってるって、わけじゃないし。
父親とは言ってるけど戸籍関係だけって可能性もある。だからこそ、やっぱり深入りすることなんてできないままで。
「……鞠?」