【完】STRAY CAT
挑発的で、どこか扇情的。
わずかに潤んだ瞳は、俺を拒んではいなかった。
「蒔、いつも目覚ましてわたしのところ来るから……」
むしろ……期待?
口では蒔のことを気にしている素振りだけど、どうにもその目線は俺に向かないまま、もどかしそうに逸らされる。
「声出さなかったら、なんとでもなるって」
「ならな、……っ」
反論しかけたくちびるを、ゆったりと指でなぞる。
一瞬挑発を見せた瞳は、とろんと蕩けた。
……素直じゃねえんだよな。
本気で嫌がってたら、鞠の場合、こんなに大人しくないし。なんなら文句よりも先に手が出そうだし。
「……だめ?」
耳元での囁きに、鞠が肩を震わせる。
目尻がじわじわと赤みを帯びて、それを勝手に肯定と受け取った俺が、部屋着の裾に手を忍ばせたとき。
「っ、」
突然響いた着信音にハッとした鞠が、俺を押し退ける。
蒔を起こしてしまわないように、と。慌てて出たらしい鞠は、そのまま「もしもし」とスマホを耳に当てた。
……タイミング悪いな。
「……え、?」
鞠の声が、戸惑ったように揺れる。
つられるようにして顔を上げると、鞠の表情はこわばっていた。