【完】STRAY CAT
俺にだって、そんなことはわかってる。
俺が守りたいって思うヤツは、最初からあいつだけだ。
……ただ、ひとつだけ。あるんだよ。
引っ掛かったままで、どうしようもないものが。
「……、もしもし。あすみ?」
狭い個室に響いた着信音。
応答したなずなは、ちらりと俺を見て「いるけど?」と電話の相手らしいあすみに返す。
何度も何度も、考え直した。
何度も何度も、同じ光景を夢に見た。
「うん。……思ってたより話が早いね」
何度も何度も、夢でやり直した。
それでも、俺は。あの日の鞠からの別れを、一度も拒めなかった。
「了解、伝えとく」
付き合う前は、俺がどれだけ突き放したって鞠はめげなかった。
それくらいまっすぐに想ってくれてたから、俺だって多少は素直になれたと思う。
まわりから散々俺との関係に口出しされても、健気に一緒にいてくれた。
……それってたぶん、すげえ勇気のいることなんだろうな。
特に。
あいつはもともと、かなりの優等生だったから。
それを捨てるなんて決断、簡単にはできねーはずなのに。
捨ててまで、一緒にいたいって言ってくれた。
……結局最後まで臆病なままだったのは、俺の方で。
「恭」