【完】STRAY CAT
家のこともそうだ。
それから、あの日はじめて俺の前で泣いた鞠に対しても。
理由を聞けなくたって、つなぎとめる方法ならきっと少なからずあったはずで。
せめて「別れる気はない」と言えたら、何か変わっていたんだろうか。
……なんて。
どうこう言ったところで、一度すぎた過去はもう変えられない。
あのときは、それが最善策だと思った。
鞠の唯一のわがままを呑んでやることが、鞠のためだった。
でもひとつだけ、引っ掛かっていること。
引っ掛かってどうしようもないそれは、俺ひとりで解決できる問題じゃない。
「最近このあたりで動いてる連中、いるでしょ。
どうやら。……明日、仕掛けてくるみたいだよ」
鞠のことを想う気持ちだけは、今も変わらない。
「……ああ、なんか動いてるって言ってたな」
「ほんとにここ最近だけどね。
……恭が元カノと接触してる話、出回った頃からかな」
「………」
卑怯なヤツらはすぐに、弱みを握ろうとする。
絶対的で鉄壁の藍華を負かすためには正攻法じゃどうしようもないことも、わかってはいるけど。
「あいつらに、危険はねーんだろうな?」
「心配しなくても平気だよ。
恭が心配性なの知ってるから、あすみも彼女と連絡取ってるんでしょ」
あすみがやたらと俺と鞠の関係を気にかけているような気もするが、まあいい。
鞠や蒔に何か危険がないのなら、それに越したことはない。