【完】STRAY CAT
俺がひとりで孤立していたあの頃。
本当は、望んでそうやってひとりでいるつもりだったけど。
俺自身も気づいていなかった空白を埋めてくれたのは、ほかでもない鞠だ。
会わないうちに変わってしまったあいつの空白を埋めてやれるのは、今は、俺じゃない。
今は、俺じゃなくても。
……いつかまた、俺に、なればいい。
「でも、」
「……でも?」
「あいつが相手なら、運命も悪くねーな、とは思う」
プライドが高い鞠が、俺の前で二度目に見せた涙。
あの日華奢な肩を震わせた鞠は、紛れもなく俺に縋った。
「……ふ。やっぱりベタ惚れなんでしょ?」
「好きに言っとけ」
本当は。……すこしだけ、怖かったんだと思う。
たやすくマンションの契約者を調べられてしまうほどの腕を持つなずなに、鞠の居場所を突き止めてもらうことも、通っている高校を突き止めてもらうことも、本当は簡単に出来た。
頼めばなずなは、間違いなく調べてくれた。
ただそれをしなかったのは、鞠のためだと思って。
そんな風に言い訳して、あいつからの拒絶を恐れた。
結局、それらは全部俺の被害妄想で。
鞠が完全に俺を拒絶したことなんて、一度もなかった。
俺が付き合う前に鞠に接した時の態度を考えたら、一連の拒絶なんてかわいいもんだろ。
それでも鞠は向き合ってくれた。今度向き合うのは、俺の方だ。