【完】STRAY CAT
呼び止められたけど、つながれていた手をするりとほどいて駆け出すわたし。
せまい路地裏をぱたぱたと駆ければ、その音がどんどん近づいているのはたしかだった。
ちかづくにつれ、鮮明になる音。
はじめに聞こえたのは鈍いそれだけだったけど、大きくなると同時に、それがただの音だけじゃなかったことに気づいた。
「……鞠!」
聞こえてくる罵声とうめき声。
殴るだか蹴るだかの暴行を受けているのが、痛々しく骨の軋むような音でわかる。ときおり挑発するような声と、悲痛な悲鳴のようなものも聞こえた。
すぐそばまで近づいた時、わたしを追いかけてきたハセが、わたしの腕をつかんで小声で、でも窘めるように呼び止める。
ぐっと腕をつかまれて、それ以上進めない。
「やめとけ。余計なことに首つっこむな」
物陰から、ちらちらと人の姿が見える。
薄暗くてわからないけど、どう見ても制服だった。
「でも、」
「警察でも呼んだほうが賢い。
俺もお前も喧嘩できねえのに首突っ込んでどうすんだよ」
「警察待ってる時間がもったいない……!
行けば多少は怪我を防げるでしょ!?」
「おま、っ、ばか……!」
強引にハセの手を払って、路地の先に急ぐ。
飛び出すのと同時に「何してるの?」って冷静にたずねたら、その場に居合わせた全員が、わたしを振り返った。
倒れている男は3人。駆け付けたけれど、もう3人とも意識がないのか動かない。
全員同じ制服で、近くの高校のものだ。そして3人を取り囲んでいる男は5人。倒れている3人とは別の制服だけど、5人の方も高校生。
マスクやらフードやらで顔が見えづらいけど、髪色とアクセサリーの特徴、体格なんかを覚えておけばいい。
5人組でこういうことをしているなら普段からつるんでる仲だっていうのは、すぐにわかる。