【完】STRAY CAT
さすがに抱きしめねーけど。
ぽんぽんと頭を撫でて「大丈夫だ」って言ってやれば、鞠は小さくうなずく。それから涙を拭う鞠に、声を掛けたのは。
「ほんとにヨリ戻したのか」
「へ? ……え!?
なんで春野先生、ここにいるんですか……!?」
「ひさしぶりだね西澤さん。元気にしてた?」
うわ、出た。みちるさんの表の顔。
完璧に優しい保健医を演じるみちるさんを信じ切っている鞠は、「はい」と綺麗にうなずく。
「俺ね、ここのOBなんだよ。
てか、もうめんどくせえからこっちでいくわ。ごめん西澤、俺素の口調こっちだから適当に慣れて」
……飽きんの早ぇよ。
鞠も状況を掴めてないのか、ぽかんとしてるし。
「……なるほど」
「相変わらず飲み込みの早い生徒だな。
……いや、もう卒業してるから元生徒か」
鞠は「そうだったんだ」と小さくつぶやいて、俺をじっと見る。
それから「本当に大丈夫なの?」と、首をかしげた。
ふわりと、仄かに甘い匂いがする。
「……大丈夫だって言ってんだろ?
つーかお前、蒔は? 一人で待たせてんのか?」
「まさか。……面倒、見てもらってるから」
ぽつ、と。
わざとらしいほどに小さく落とされた声に、勘が働く。……つまり彼氏に、蒔のことを任せてきた、と。