【完】STRAY CAT
次いでなずなやあすみ、みちるさんまで部屋を出ていくから、幹部室には鞠と俺だけが取り残される。
わざとらしく作られたふたりきりの状況に、戸惑いと、若干の嬉しさが混ざるせいで、思わず眉間を寄せた。
「……念のため病院行けって、先生言ってたけど」
「本当に気にするほどじゃねーから大丈夫だっての。
……ま、バイクがしばらく使えねーのが痛いな」
「……壊れちゃったの?」
「この怪我の原因。
細工されてブレーキ利かずに、植え込みに突っ込んだ」
想像したのか、悲痛に歪められる鞠の表情。
それにふっと息をついて、それから「鞠」と名前を呼べば。
じっと俺を見つめる瞳。
優等生だった頃と同じ黒髪をそっと撫でれば、その瞳に熱が孕むのは、俺の都合の良い妄想だろうか。
「……まだ、帰りたくないんだろ?」
滑らかな頬を撫でれば、たまらなく愛おしくなる。
視線が絡んで、その距離が、ゆっくりと縮まって。
「ならずっと、俺んとこにいろよ」
「っ、」
ぴくりと揺れる鞠の肩。
まるで応えるかのように、まぶたはそっと伏せられた。
「……今だけは、恭と一緒にいる」
わざとらしく"今"を強調されたにも関わらず、勝手に肯定だと受け取って重ねたくちびる。
今しか一緒にいられないのなら。──時なんて、止まってしまえばいい。