【完】STRAY CAT
第10章 ティアー・メモリー
◇
それは突然の、報せだった。
大音量で音楽が流れたことで目が覚めて、まだぼんやりした頭のまま身体を起こす。
隣にいる蒔がすやすや眠っているのを見て、そこでようやくハッと頭が覚醒した。
……っ、はやく止めないと起こしてしまう。
音の発信源は、普段鳴ることのない自宅の電話。
こんな朝方から掛かってきては、薄い壁の向こうの隣人にも迷惑をかけてしまうと、慌ててわたしは電話に出た。
「……もしもし、」
『あっ、鞠ちゃん?
こんな朝早くにごめんね、実は……っ』
電話の相手は、お母さんの仕事先のママさん。
わたしと蒔のことを本当の娘のように大切にしてくれている人で、少なくとも年に一度は機会を作って会っていたから、すぐに相手がわかった。
そもそも、この家にはお母さんとママさん以外の誰も、電話をかけてこない。
そんなママさんの焦った声に、首をかしげる。
「何かあったんですか……?」
『愛ちゃんがね、仕事上がって帰ろうとしたらいきなり倒れちゃったのよ。
店は任せてわたしも救急車で病院に来たんだけど、』
ひやり、と、身体の内側が冷えるような気分だった。
どこか焦っている声なのに、それでもわたしのことを安心させるみたいに、ママさんはゆっくり穏やかに話そうとしてくれた。
「た、たおれた、って……」
『鞠ちゃん……』
頭がガンガンする。
それ以上聞くなって、言われてるみたいだった。
聞いたらきっと後悔する。
……なのに、聞かずには、いられなかった。