【完】STRAY CAT
一緒に暮らさないかとまで、聞いてくれた。
そんな優しいママさんは、きっとわたしたちの知らないところでも、お母さんを沢山助けてくれたんだろう。
「お礼なんて言われることしてないわよ……
むしろ、わたしがもっと、愛ちゃんを気に掛けてたら、」
「……だいじょうぶです。
わたし、お母さんの口から、ママさんの素敵なところしか、聞いたことがないから」
ストレスと働きすぎでの過労死。
無理に働かされていたわけでもなく、とくべつストレスがかかる環境でも無かったようだけれど。
わたしには計り知れないストレスがあったのかもしれない。
……なんて。何も、気づいてあげられなかったくせに。
「何かあったら、いつでも連絡して。
……鞠ちゃんも、蒔ちゃんも、絶対に守るから」
力強くそう言ってくれるママさんにお礼を言って、うしろに停まっていた車へと乗り込む。
蒔はまだ元気を取り戻していないけれど、わたしに迷惑をかけないようになのか、大人しく保育園に通ってくれている。
「お礼は言えたかい? ……鞠」
「……はい」
車の、後部座席。
スーツを着たその人は、一見とても優しそうに見える。
「それじゃあ……
とりあえず、不動産屋に寄ろうか」
その一言で、車は静かに発進する。
……病院でなんとか意識があった時、お母さんは、薄れる意識の中でママさんに一枚の名刺を渡したらしい。
『何かあった時は』と手書きされた、一枚の名刺。
橘花コンツェルン代表の、プライベートスマホの連絡先が書かれていたそれ。
ママさんが連絡すれば、彼はお母さんのお通夜にもお葬式にも顔を出した。
……そこではじめて知った、ほんとうの、こと。