【完】STRAY CAT
「鞠、」
「おねがいだから……蒔だけは、これ以上、巻き込まないで」
車の中で、深く深く、頭をさげる。
自慢だったはずの髪色は、お母さんの最期を見送るために、黒くなっていた。
「だいじょうぶだから、頭を上げなさい」
「嫌です。
……約束してもらえないのなら、わたしが何としてでも蒔をひとりで育てます」
「鞠、」
「橘花コンツェルンは後継者がまだ決まってないって聞きました。
……もし今の条件を呑んでもらえるのなら、わたしが後継者になります」
蒔のためになら、頼らなくたって生きていける努力をすることはできる。
それでも、蒔が幸せな生活を送ることができるのは、父親に頼るという手段だった。
だから、わたしの身をどれだけ削ってでも、わたしは蒔を幸せにしてみせる。
幸せにできなかった、大切な大切な、お母さんの分まで。
「……、わかったよ」
「………」
「蒔の前に、顔は出さない。
その代わり黒田から、定期的に鞠に連絡を入れさせる。私はまだ娘たちのことを公表していないから、蒔がうちの話に巻き込まれることもない」
なんだかすこし、困ったような声色だった。
小さく息をついて、それからわたしの頭を撫でる手は、とても大きい。
「基本的には、鞠がやりたいようにすればいい。
……私の大切な娘たちが、あぶない目に遭わないなら、なんでも」