【完】STRAY CAT
そんな条件で、わたしたちは親子になった。
血縁であり、戸籍上の親子。わたしがもし誰かと結婚することになったら、その時は相手の名字に変わっても構わないらしい。
いわゆる政略結婚。
だから、蒔が橘花という名字で色々感づいてしまう前に何とかすればいいと、一時的に橘花の名字を継ぐことも素直に了承した。
そんな一連の条件に、恭のことは巻き込めない。
恭と別れたあとは、すぐに髪を染めた。
学校も卒業していたし、彼はわたしの家を知っているから本当は何か起こるんじゃ無いかと期待したけれど、引っ越すまでに恭は一度も来なかった。
だから最後に会ったのは、別れた日。
別れを選べば、関わりは微塵もなくなった。
「……恭、」
再会なんて、望んでいなかった。
……そう言えたら、どれだけよかっただろう。
ふたりきりにされた部屋。きつく抱きしめられたせいですぐそばにある襟元からは、包帯がちらりとのぞいている。
彼の負った傷を考えただけで、痛々しさで顔がゆがんだ。
「ねえ、恭ってば、」
「……俺は、鞠と出会ってからずっと、後悔してる」
耳元で落とされた声。
どくんと跳ねた心臓は、すごく嫌な音を立てた。
わたしと出会ってからずっと、後悔してる。
その言葉に込められた意味は、どうやったって良いものじゃない。
「毎日、毎日。
……この日の、この言動が、まちがってたんじゃないかって」