【完】STRAY CAT
「わたし、紘夢と結婚するの」
ドクン、ドクン、と。
心臓の音が、うるさくなる。
恭に何を、言われてしまうのか。
わからなくて、怖くて。……それでも、本当は。
「……、そうかよ」
嫌だって、言われたかった。
それが不可能だってわかっていても、結婚なんてやめて一緒いろよって、言ってほしかった。
ただのわがままだってことはわかってる。
だって、突き放したのはわたしの方だ。
恭の表情が、翳る。
覆い被さる形になっていた身体が離れて、恭がわたしと距離をとる。……これで終わりの、合図。
「……もう、邪魔しねーから」
わたしのすべてを受け入れてくれていた恭。
一方的に振られても尚、好きでいてくれた恭。
その恭が、自分から離れた。
それがどういう事なのか、わたしにも分かる。
わかっているから泣きそうになって。
恭の前で泣いてしまうわけにはいかないと、ソファから立ち上がる。そのまま目も合わせず扉の前まで行くと、ドアノブに手をかけた。
「……ごめんね、恭」
本当は、好きだって言いたかった。
言わなくてもわかっていたかもしれないけど、それでも、自分の言葉でちゃんと伝えたかった。
本当は、ずっとずっと、一緒にいたかった。