【完】STRAY CAT
「……送ってく」
部屋から出ると、壁に背を預けて待っていたらしいあすみくんに、声を掛けられる。
何も言えないわたしの頭に、彼はぽんと手を置いた。
「……お前にも事情があるんだろ」
「っ、」
「悪いな。……連れてきちまって」
ふるふると、首を横に振る。
怪我も何も知らされずにいるより、ずっと良かった。連絡してくれたことも、連れてきてもらえたことも、嬉しかった。
泣きそうなわたしの手を引いてくれるあすみくん。
階段をおりると、ほかのみんなもいた。春野先生もどうやら、まだ帰っていなかったようだ。
「送ってくる」
みんな、何か言いたげだけど。
ぽろぽろ先に涙が溢れてきてしまって、時折視界がぐにゃりと歪む。わたしの手を離してさり気なく腰を抱いたあすみくんに連れられ、倉庫を出た。
「すこし付き合ってくれるか?」
来たときは、迎えに来てくれたあすみくんのバイクの後ろに乗せてもらった。
帰りもその予定かと思っていたけど、それに頷いてみれば、あすみくんはバイクのキーをポケットに入れる。
「恭は、昔っから親と仲悪くてな。
……出会った時から、独りで過ごしてんのが当たり前みてえなヤツだったんだよ」
すこし歩き出してから、ぽつりとあすみくんが告げる。
それは、知っているようで知らなかった、恭の話。
わたしと出会った時には、藍華に入っていた恭。
ギリギリ小学生の頃に、あすみくんは恭と出会ったらしい。一見真面目そうなあすみくんが、その頃から藍華の当時のメンバーたちと仲も良くて遊び歩いてるのは、なんだか想像がつかない。