【完】STRAY CAT
「ねえ、恭」
「ん? ……どした?」
それは、中3の夏休みのことだった。
蒔を朝から保育園に預けた鞠が、前に一度訪れた俺の家に遊びに来た。真面目な鞠は受験勉強をすると言っているけど、俺はそんな気さらさらない。
でもまあ、邪魔する気はねーし。
ベッドに座り、壁に背を預ける。部屋のテーブルで問題集を広げる鞠を時々見やりながらスマホゲームで遊んでいたら、不意に鞠がすり寄ってきた。
「ちょっと休憩。……何して遊んでるの?」
「今やってんのはFPS。
……つっても、わかんねーだろうけど」
俺も鞠も基本マイペースだから、鞠は俺がゲームしてたって怒らねーし、俺も鞠にめちゃくちゃ干渉はしない。
ある程度頑張って疲れたのか何度か瞬きを繰り返した鞠は、甘えるように寝転んで俺の膝に頭を乗せた。
「ねみーの?」
「ううん……落ち着くの」
黒いベッドシーツに、鞠の髪色はよく映える。
ちょうどゲームがキリよく終わったところでロード画面に切り替わったから、鞠の頭を撫でた。自分から聞いた割に、ゲームには興味ないらしい。
淡いブルーのワンピース。
裾から覗く脚を見てスマホをスリープさせると、鞠が大きな瞳で俺をじっと見つめてきた。
「……恭」
するりと起き上がって、鞠が俺の背中に腕を回す。
恥ずかしがるくせに甘えてくる健気な姿さえ愛らしくて、抱き締め返してからそっと口づけた。
俺のことが、好きだって顔。
……わかりやすくて、たまらなく愛おしい。